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(11)取引のデジタル化(電子受発注)が注目された2022年の中小企業白書

中小企業白書を読めば、日本の中小企業向けのデジタル化施策の方向性がわかる

みなさんは中小企業白書を読んだことがあるでしょうか?毎年、中小企業の動向データが発表されるとともに、中小企業が向かうべき方向性を提示してくれる白書です。白書はたいてい分厚くて、じっくり読むには骨が折れることが多いです。しかし、日本政府がどのように中小企業を応援して、政策を決定していこうとしているのが読み取れます。そのため毎年読んでいると、政策の方向性の変化も感じ取れるので興味深いです。

ここ10年の白書を振り返ると、繰り返し実現が求められているテーマがいくつかあります。一つは「事業承継」です。毎年社長の高齢化は進展し、2019年の中小企業白書では、58.4%が60歳以上となっています。そして、後継者が決まっていない60歳代の社長は49.5%います。中小企業が後継者難で廃業すると、雇用が減少しますので、後継者育成や、M&Aへの注目は高まり続けていると言えます。

そして、2つ目の、継続的に取り上げられているテーマは「中小企業のデジタル化」です。以下の図表に、この10年の中小企業白書の大テーマと、デジタル関係が取り上げられている章タイトルを紹介します。

中小企業白書の歴史を振り返ると、2013年に「情報技術の活用」というタイトルが登場し、情報技術すなわちデジタルを活用して効率化を高めていこうと述べられていました。さらに2016年に「中小企業におけるITの利活用」となり、生産性の向上が強く謳われ始めました。この頃から、日本の生産性の低さが盛んに取りあげられるようになりました。生産性を高めるための補助金制度もいくつか登場してきたタイミングです。IT導入補助金も2016年に新設されました。また、2018年になり、深刻化する人手不足をITでなんとかしよう!という提言になりました。

そしてコロナ禍を迎え、2021年の白書では、「事業継続力と競争力を高めるデジタル化」という章立てになり、デジタルを活用していないと事業が続かない!とまで、述べるようになってきました。実際に、コロナ禍で、緊急事態宣言が出て、お客さまとの非対面が求められていた中では、デジタルの対応は急務になり、実現しないと事業継続が難しかったと言えるでしょう。

2022年の中小企業白書の概要〜取引適正化とデジタル化

そして、今年2022年では、「共通基盤としてのデジタル化」となりました。つまりデジタルは電気や水と同じくインフラであり、事業をする上では、使うのが当然という提言です。ここまで、10年を振り返るだけでも、中小企業白書では、デジタルの役割がどんどん大きくなるのが伝わってきます。2022年の中小企業白書の「共通基盤としての取引適正化とデジタル化」の冒頭部分では以下のようにまとめられています。

(以下引用)

“中小企業・小規模事業者の事業継続、成長を支えるインフラ(共通基盤)として、取引適正化やデジタル化、伴走支援に着目。取引適正化については、コスト変動に対する価格転嫁の状況や販売先との交渉機会を設けることの重要性などを示す。デジタル化については、感染症下における進展状況やデジタル化の進展に応じて効果がより実感できることなどを示す。”

企業間取引におけるデジタル化の状況〜BtoB ECの普及は進む?

デジタル化と言っても様々な範囲がありますが、2022年の白書で多くのページを割いていたのは、「企業間取引におけるデジタル化」です。そのため、関連するデータが掲載されています。企業間取引のデジタル化の中身としては、「リモート商談」と「電子受発注」が注目されています。

以下の図表で、リモート商談の対応状況を見ると、2020-21年で大きく割合が伸びています。コロナ禍に入って、Web会議ツールを使ったリモート商談が急速に増えたことが見て取れます。

一方で、電子受発注の対応状況は、コロナ禍以前から4割程度の企業が対応済みでした。2020-21年も対応を図っている企業が増えています。リモート商談は機器さえあれば、すぐにでも始められますが、電子受発注は、導入前に十分に準備をしないといけないため、リモート商談ほど急速に増えているわけではありません。それでも今後の対応を検討する企業の数も多く、2/3程度の企業が、今後対応していくものと考えられます。電子受発注、近年ではBtoB ECと呼ばれることも増えていますが、今後の注目分野であると言えるでしょう。

【企業間取引におけるデジタル化の状況】

(出典:中小企業白書2022年から著者が追記)

企業間取引をデジタル化したことによる効果

企業間取引をデジタル化した企業は以下の図表のように、効果を実感しています。リモート商談での直接的な効果といえば、出張コストが下がったことです。著者自身もコロナ前と比べると6割程度の出張が減り、オンラインでの対応が増えています。受注側の旅費交通費が下がるメリットもあれば、取引先が負担する旅費分の費用を抑える効果もあったでしょう。

さらに、「遠方の取引先との交渉が可能になった」という回答が多いことには注目です。以前であれば、遠方まで行く出張費や移動時間があるため、開拓できなかった遠方の取引先でも、移動コスト、時間コストが掛からないのであれば、受注できるケースもあるでしょう。リモート対応することは、コストを抑えるだけでなく、売上アップにも貢献していると言えます。

【企業間取引におけるデジタル化に対応したことによる効果】

(出典:中小企業白書2022年から著者が追記)

電子受発注のメリットとしては、生産性が向上したという回答がトップです。これは、電話やFAX、メール受注などは、その後続処理として、自社の受注システムに登録があります。一方で電子受発注になれば、受注処理が自動化され、請求書や領収書などを送付する手間も減少するでしょう。そのため、生産性が向上割合は大きいと言えます。

さらに注目したいのは、業務の定型化、マニュアル化が可能になったという回答割合が多いことです。以前までは、各自の営業担当がバラバラに受注処理をしていたものを、電子受発注化することで、皆が同じ業務フローで受注処理をすることになり、業務が定型化できたと考えられます。

本記事では、過去の中小企業白書のデジタル化についての提言の歴史を振り返った上で、2022年のテーマである「取引のデジタル化」の状況について確認しました。BtoB ECを含めた「取引のデジタル化」は今後一層すすむことが予想されます。

この記事の筆者

㈱にぎわい研究所 代表取締役 村上知也

IT企業に13年の勤務の後、2008年に中小企業診断士登録。中小企業のデジタル化やWebマーケティングの支援を中心に活動中。
商工会議所などの多数の公的機関においてデジタル・IT関連のセミナーを実施している。